SPECIAL

TALK SESSION

杉山清貴&林哲司
『NEVER ENDING SUMMER REMIX』特別対談

杉山清貴&オメガトライブが2023年のデビュー40周年に向けて始動した「40周年リミックスプロジェクト」。
これは当時のマルチ音源から、現代的な解釈ですべての音のRe-Mixをあらためて全曲行ったものであり、さらに各アルバムの収録曲のうち1曲にRe-Arrangeを施したものが、ボーナストラックとしてコンパイルされている。
2021年9月に発売がスタートし、これまでに『AQUA CITY REMIX』、『RIVER’S ISLAND REMIX』をリリース。
そしてこのたび、3rdアルバム『NEVER ENDING SUMMER』が『NEVER ENDING SUMMER REMIX』となって発売となるのを機に、バンドのフロントマンだった杉山清貴と、本リミックス盤で総監修を担う林哲司に、当時のことも交えながら話を聞いた。

オメガにはどういう曲がいいのか、
それが見えた時期かもしれない──杉山

杉山清貴&林哲司『NEVER ENDING SUMMER REMIX』特別対談

──今回の「40周年リミックスプロジェクト」の発端は2019年1月発売の『OMEGA TRIBE GROOVE』のDisc2「Re-Mixed Tracks」盤から始まったとも言えるわけですが、そのときにリミックスされた12曲、さらにその後リリースされた7インチシングルボックス時に9曲が追加リミックスされ、残る手付かずだったアルバム曲40曲で順次リミックス作業が行われている状態となります。今回はすでにリリースされている『AQUA CITY REMIX』『RIVER’S ISLAND REMIX』を経ての3rd『NEVER ENDING SUMMER REMIX』ということになりますが、これまでのリミックス盤3枚を聴いた印象からお聞かせください。

まず『OMEGA TRIBE GROOVE』のときにリミックスされた音源を聴いて、音の分離が良くなったことがひとつ大きなインパクトになったのと、エコー感がなくなったことで杉山くんのボーカルが際立って聴こえるようになり、歌唱力が明確に前に出てきたんです。音の分離については、アレンジの仕掛け……こんなことまでやってたんだっていう発見もありました。

杉山僕としては “これが普通” と思っていた当時の音が、ぜんぜん違う作品になっているっていう驚きももちろんありつつ、自分の声が “こんなにハッキリ出てくるんだ” っていう驚きがやっぱりいちばん強かったですね。時代によって流行りの音って変わっていってるんだなっていうのもあらためて感じましたし。

──たしかに音像として、リヴァーブ感がなくなったのは明確に感じ取れますよね。

杉山それは大きいですよね。

大きいよね~。

──あとはコーラス、ストリングス、ブラスがより前に出てきた印象も受けます。

杉山それによって音が一気に広がりましたよね。

エコー感で隠れてたものが見えてきたというか。

──今となっては当時のボヤけた音像の方が違和感あるというか、それがエイティーズな音を演出する手法とも言えるわけですが。

それは当時のAORの影響でしょうね。

杉山向こうのAORってスネアの音が “パン” じゃなくて “ボンッ” って感じでしたもんね。そういう流行りがあったから、当時は違和感なくやってたんだろうなと。

──80年代ってドラムの音色自体だけ取っても、トレンドの音がありますよね。

オメガの時期の少しあとにゲート・リヴァーブの音が日本でもトレンドになるのかな。フィル・コリンズとかのあの音。

杉山オメガでいうと『AQUA CITY』って音数は多くないし、シンセも少なめじゃないですか。そして『RIVER’S ISLAND』以降、音数が増えてくる。そういう聴き方をしていくと、作品を重ねていくに連れてドラムだけじゃなく全体的にどんどん音作りが派手になっていくんですよね。『AQUA CITY』はシンプルなAORっていう感じだけど、『RIVER’S ISLAND』からガラッと変わっていくというか。

僕としては『RIVER’S ISLAND』でスタッフも含めてオメガのサウンドを理解したっていう印象はあるよ。

杉山そうかもしれないですね。

『AQUA CITY』のころはまだいろんなことにチャレンジしてる時期で。

杉山曲もまだ持ち寄りというか、僕もアマチュア時代の曲をそのまま提出しちゃったりしてますし(笑)。方向性を試しながら確認する時期だったんでしょうね。

──その流れがあっての今回の3rd、『NEVER ENDING SUMMER』になるわけですね。

今回作業しててあらためて気づいたのが、シングルの「Riverside Hotel」を除いたA面4曲は杉山くんの曲なんですよね。それらの曲を聴いても、『RIVER’S ISLAND』のときにオメガの方向性がちゃんと見えて、曲を書きやすくなったんだろうなって思うんです。

杉山そうですそうです。どういう曲にすればオメガの世界からは外れないっていうのが見えた時期なのかもしれないですね。

──1曲目の「Misty Night Cruising」はオメガで杉山さんが書いた曲で唯一、康珍化さんが詞を書いているので、ひょっとしてシングル候補だったのかなと思ったりして。

杉山それはわからないですねぇ~。

ふふふ。

──藤田プロデューサーの評価も高かったのではと勘繰ってます。

それはホント、そうなんじゃないかな。藤田さんは詞はもちろん曲に対してもすごく厳しい人だったけど、この曲は評価してたんじゃないですかね。そんな気がするな。だから(シングルにならなかったのは藤田さんが)僕に気を使った可能性もある(笑)。

杉山でもこのアルバムでいうと僕としては “組曲って何?” っていうのがいちばん最初にありました。どうなるの?っていう不安の中でオケを聴いて、これは新しい次元に進んだなって思ったので。

──このアルバムにおける林さんへの藤田さんからのオーダーは “B面の組曲をお願いします” ということだったんですかね。

そうでしたね。僕としてもオメガにとってアルバム曲としてどういう曲が必要だろうかというところが、3枚目ということもあってある程度は想像がついた部分もあります。でも組曲なのでまずは主題となるメインテーマを書いて、それにつなげるような作品を4~5曲書いたのかな、それで最終的には4曲にまとめたんですけど、難しかったのは曲と曲をつなげるためのキーの設定と仕掛け、あとは「Never Ending Summer I」のアタマに出てくるメインテーマを最後(「Never Ending Summer IV ~ Prolog」のProlog部分)にリプライズ(=reprise)で出すっていうクラシック音楽でよく見られる手法を入れて、アレンジの中でどう意味合いを出すかっていうところで苦労した記憶があります。

──組曲をやるって、バンド/プロジェクトとしても初期ではやれないというか、バンドとしても成熟期だったからこそのものかなとも思います。

良くも悪くも(藤田さんは)思いつきの人だったからね(笑)。

杉山たしかに(笑)。

信念はすごくある人で、それはちょっと違うんじゃない?っていうこともたまにあるんだけど、このタイミングで組曲というのを発案したのは今考えるとすごいことかもしれないですね。

──“Never Ending Summer” というキーワードは当初からあったのでしょうか?

どうだろう、曲を書き始めた段階ではなかったかも。詞の部分だしね。この組曲って変な話、曲は単体でも取り出せるじゃないですか。でもそれを組曲にするいちばんのファクターとしてあるのは詞の統一性と流れですよね。

杉山ストーリーとして完結させないとですもんね。詞のテーマというか世界観は藤田さんの発案ですよね?

組曲のすべての詞は秋元(康)さんだけど、コンセプトは藤田さんだよねたぶん。

──この“Never Ending Summer” というキーワードは、のちのシングル「ふたりの夏物語」の副題にも使われるんですよね。

それはね~、最初から入ってたんだっけ?

杉山どうだったですかねぇー。

(シングル制作の)当初は入ってなかったはずで、途中、気がついたら入ってた記憶がありますね。

素材としての音のすごさみたいなものを
感じ取ってもらえると嬉しい──林

杉山清貴&林哲司『NEVER ENDING SUMMER REMIX』特別対談

──もといな質問になってしまいますが、杉山さんのVAP時代の初期ソロアルバムと、コンプリート・シングル集の5枚組ボックスが今年6月にリマスター音源で発売されました。一方、現在走っているオメガの40周年プロジェクトは “リミックス” 音源を順次リリースしている状況です。そこでこの “リマスター” と “リミックス” の違いについて、言葉で説明するとしたらどう説明しますか?

杉山リマスターはワーナー時代のものも含めて過去にも出していますけど、変化という意味ではリミックスの方が違いがわかりやすいかもしれないですね。リマスターはオリジナルの音とまとまりとしては同じなんですよ。

今やってるリミックス作業はオリジナルではマスキングされて聴こえていなかった音以外にも、当時録音はしたものの最終的に採用しなかった音を復活させたりしているパターンもありますからね。

──わかりやすいところだと、『RIVER’S ISLAND REMIX』収録の「Do It Again」はすごく変わってますよね。

杉山すごいですよね、あれは。要は当時使わなかった音ってことですよね、けっこうそういうことがあったんだなって。

今回の『NEVER ENDING SUMMER REMIX』でいうと志熊(研三)くんがアレンジした「Eastern Railroad」はイントロでオフってたブラスがけっこう復活してたりね。

杉山かっこいいんですよ、それがまた。

かっこいいよね。あと、怪我の功名とも言えるんだけど、当時のトラックシートには録音した音を部分的にオフったことまでは書き込まれてないわけで、それに当時とはエンジニアが違いますからね。今回リミックス作業をやってくれている内沼(映二)さんはオメガのデビュー前段階の数曲、あともうひとりの三浦(瑞生)さんは当時何曲かでアシスタントをやってくれていたわけですけど、そんな細かいことまで憶えてるわけがないので、とりあえずマルチに入っている音源をすべて生かす方向でミックスしたものをまずはサンプルとして送ってきてくれるんです。そこで僕もオリジナルとの違いに気づいて、“こんな音も録ってたんだ” ってなるんですよ。

──今回、オリジナルとは異なるところで印象に残っている箇所はありますか?

例えば「Never Ending Summer I」に出てくるBメロ部分のオブリは、オリジナルはシンセがメインでトロンボーンはよく聴かないと聴こえないくらいのバランスで鳴ってたんですね。そこで今回のリミックス盤では両方鳴らすのはやめにして、1回目と2回目はシンセのみに、3回目はトロンボーンのみ(編注:5’08”~)にするっていうのをやっています。こういうの、ファンの人は気づくかな?

杉山気づくと思いますよ。みなさんオリジナルを嫌っていうほど長年聴いてきたでしょうから(笑)。ちなみにそれって、当時オフにした経緯とか憶えてますか?

この組曲については、アメリカのレコーディングにみられるようにブラスセクションを新田一郎さんに頼んで、僕がブラス以外の部分のアレンジをして録り終えたものにダビングする形であとから入れてもらったものだから、僕の手元に譜面がなかったんだよね。だからそのオフったのはさらにあとの工程。トラックダウンの時だね。

杉山なるほど! そっかそっか!

それと同様に「Riverside Hotel」の間奏部分がオリジナルは前半がギターソロ、後半がストリングスのソロではっきり分かれてるんだけど、今回のリミックスだと前半のギターソロのうしろにもストリングスが鳴っています。

杉山そういうのはファンの人はすごく嬉しいと思いますよ。

当時の感覚として、前半のストリングスを外したくなったんでしょうね。

──当時はひとまずフルで録るだけ録って、最終判断に猶予を持たせるような制作工程だったんだなと。

杉山そういうことですよね。

40年経ったことで、当時削ったものでも “あってもいいのかな” っていう違う判断になるっていうね。

杉山音の分離が良くなったこともそう思える要因ですよね。

そうそう、それは絶対ある。

杉山そう考えるとおもしろいですね。当時は埋もれちゃうからとか、逆に耳障りに感じてアウトテイクにしたものが40年経って日の目を見るっていう。でもあらためて贅沢ですね、ストリングスとブラスを全部生で録った上に間引いてたなんて。

今はレコーディングする前にプリプロ作業でほぼ音の構成は決めちゃうでしょ。でも当時は、このフレーズをブラスが吹いてるパターンも聴いてみたいってなると実際に吹いてもらうしか方法がなかったわけだから。

──なるほど確かに。

総括すると、アンサンブルがクリアに感じ取れるということと、あとボーカルの際立ったうまさ、アレンジの巧妙さがオメガの魅力だったと思うんだけど、オリジナルの良さも認めた上で、今また現在の解釈で違ったものとして形にできる素材としての音のすごさみたいなものを感じ取ってもらえると嬉しいですね。

日本のメロディってコードがなくても存在できるんですよね。
そういうところにみんな惹きつけられるのかなって思います──杉山

杉山清貴&林哲司『NEVER ENDING SUMMER REMIX』特別対談

──今回のプロジェクトにおける監修作業については、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?

作業の仕方としては、まずはオリジナルをニュートラルな気持ちで聴いたあとにリミックスされたものを聴くようにしていますね。とはいえ細かい違いを探そうっていうのはないんです。新たに加わった音を探したり、比較したりすることに執着しちゃうと、エンジニアがせっかく現代の解釈で新たにミックスしてくれている作業を否定することになっちゃうから、あくまでニュートラルに聴いてみて、拒否反応なく自然に聴き流せているものはそれでOKにしています。

──またこのシリーズは、リアレンジが施された曲が1曲、ボーナストラックとして入っています。林さんが担当されたのは『AQUA CITY REMIX』収録の「SUMMER SUSPICION」のEDMアレンジに続いての「Never Ending Summer I」のリアレンジということになります。

あくまでメインはリミックスされたかつてのアルバム作品であって、リアレンジについては文字どおりボーナスです。『OMEGA TRIBE GROOVE』のときにRe-Grooved Tracksとして若いミュージシャンに曲のマルチデータを渡して自由にアレンジしてもらうというのをやったんですけど、昔からのファンの人にとってはやっぱりオリジナルのアレンジの方が聴き慣れてるし、思い入れがある。それはまぁわかるんですよ(笑)。

杉山そうなんですよね。

「SUMMER SUSPICION」をEDMでやったのも、杉山くんのボーカルはどんなに毛色の違うアレンジに差し替えたとしても成立するよっていうのを証明したくてっていう意味合いもあったんです。今回の「Never Ending Summer I」のリアレンジについても、途中から倍テン(編注:拍子の取り方を倍にすることの通称)になってビートが入ってくるオリジナルを聴き慣れている人にとっては違和感を感じるかもしれない。なので別物として、ニュートラルに聴いてほしいかな。オリジナルはちょっと置いておいて(笑)。

杉山リアレンジとかライブアレンジもそうですけど、嫌がる人って一定数いて(笑)、でも僕らとしては “こういうアプローチもあるんだよ” っていうのを聴いてほしくて作るんですよね。

──杉山さんが書いた曲という意味では、前作『RIVER’S ISLAND REMIX』収録のボーナストラック「SAIGO NO NIGHT FLIGHT 86」は志熊さんによってリアレンジが施されました。この86というのはBPMで、オリジナルよりもちょっとテンポが下がっているんですが、これが当時の杉山さんのデモテープに近いテンポとのことで。

杉山デモがどうだったかぜんぜん憶えてないんですけど(笑)、リアレンジしたものを聴かせてもらったときにサックスソロがギターソロになってて驚きました。聞けば(高島)信二がこのために新たに弾いたってことで、それはそれで面白いなと。

──このリアレンジについてはある意味縛りがなく、追加録音もOKという。

杉山ファンの人たちにおもしろがってもらえるならOKですよね。ボーナスなので。

──では、今回の「Never Ending Summer I」のリアレンジについてはどういった方法論で作業が進められたのでしょう?

組曲のメインテーマにあたる部分なので、1曲選ぶとなると “I” になるんですね。そこで当初、さらに最後のリプライズを加えようとしたんですけど、そうすると7分超えちゃうんでそれはいくらなんでもと思ったのと、詞が中間部分を抜いた形のものになってしまうと意味合いが変わってしまうので、いろいろ思案はしたんですけど、そのつなげるという案はナシにしました。あと難しい話になっちゃいますけど、“I” の序盤部分と倍テンに切り替わったあとが数値的にはジャストの倍テンにはなっていなくて、SMTPE(当時の録音で使用していた同期のためのタイムコード)が合わなかったので、そこは今のデジタルの技術でうまく収めました。それとラストのコーラスパートは、自分でやろうとしたんですけど、ひとり多重でやっても雰囲気がうまく出なくて、「Never Ending Summer IV ~ Prolog」のエンディング部分からコーラスを持ってきています。とはいえオリジナルの “IV” では追っかけのタイミングで入っているので、それをアタマの位置に移動すると3回目がディスコードになってハマらないので、そこもデジタルで修正して対応しましたね。

──なるほど、ありがとうございます。現在、半年に1枚のペースでリミックス盤がリリースされていて、次はオメガのアルバムではいちばんのセールスを記録した『ANOTHER SUMMER』ということになります。そしてなにやら、「ふたりの夏物語」をサブスクで聴いている人の約8割は海外のリスナーというデータもあるようで。

そうなの?

杉山らしいですよ、僕も何かで見ました。うちの娘はLAで暮らしてるんですけど、この前日本に来てて「ダディたちの曲、すごいあっち(LA)でかかってるよ」って言ってましたから。

ほんとぉ。

杉山ウケてる理由はやっぱりメロディだと思います。日本のメロディって独特のものがあるし、コードがなくても存在できるんですよね。そういうところにみんな惹きつけられるのかなって思います。

──なるほど。では40周年イヤーとなる2023年に向けて、今後の展開など決まっていることで話せることがあれば教えていただけますか?

杉山どこまででもしゃべれるんですけど、まだ何も定かではないという(笑)。

──そういえば杉山さんはバンド形式のライブメンバーをすごく若い人たちに一新しましたよね。

杉山そうなんです。去年からメンバーを新たに。僕を入れて平均年齢が35歳ですよ。

え~っ! それはかなり若いね。

杉山昔の楽曲を昔のアレンジでやりたいってなったときに、当時のまんまのバーン!っていう演奏をやるとなると、年寄りバンドだと息切れしちゃうんですよ(笑)。勢いがもたないというか。

──渋さが出てしまう?

杉山うまいんですけど、「もうちょっとテンポ落とさない?」とかって話になると、それやったら違うんですよって言いにくいし(笑)。

なるほどね。それは言える。

──2023年は林さんにとって50周年の年でもあります。

杉山なのでうまくリンクできるといいなっていう話はしています。

楽しみにしててください。

杉山清貴&林哲司『NEVER ENDING SUMMER REMIX』特別対談

取材・文:田渕浩久