菊池桃子

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special

林哲司 SONG FILE with Special Guest 菊池桃子
-Live “Again”-

2022年11月30日(水)billboard LIVE YOKOHAMA
2022年12月3日(土)billboard LIVE OSAKA

あの頃の少年少女を見つめる優しい眼差しと、
届けられた35年後の青春へのメッセージ

LIVE REPORT

 さかのぼること2022年5月、菊池にとって35年ぶりの林哲司とのタッグ作品となる新曲2曲を含むコンピレーション・アルバム『Shadow』のリリース告知とともに、林哲司が主宰するSONG FILE LIVEへのゲスト出演がアナウンスされた。その後、新譜リリースに伴うプロモーションを多数こなしている様子からも、音楽活動を心から喜び、楽しんでいるのがうかがえたのも記憶に新しい。ここにレポートするライブは、その後リスケジュールなどを経て、タイトルも -City Pop in Summer- から -Live “Again”- と改題されての仕切り直しとなった公演のものである。

LIVE REPORT

 SONG FILE LIVEは、林哲司が2018年から行っている自身のヒット曲をオリジナルアレンジで演奏するライブシリーズで、ヴォーカリスト3人を擁するSONG FILE BANDによるヒット曲群の完全再現とともに、オリジナルシンガーを迎えたゲストコーナーがあり、今回はそのゲスト枠に迎えられた形となる。菊池にとって約7年ぶりとなるコンサート、久しぶりに人前で歌唱する場として、フルサイズではなくゲスト枠という限られた時間での出演であったことも、決意を後押ししたのではないだろうか。もちろんデビュー時からの “担任の先生” が隣にいるという安心の空間であったことは言わずもがな、オリジナルアレンジにこだわるSONG FILE LIVEという場所があったことにまずは感謝したい。そしてこの間、おそらくテレビでの歌唱のオファーもきっとあったであろう中で、ライブが開催されるこの日までそれをせずにいてくれたことにも感謝である。

LIVE REPORT

 ここからは菊池の出演パートについてレポートしていくこととしたい。公演は横浜・大阪の2日間で各2ステージの計4回行われ、1stステージ・2ndステージで異なるセットリストが組まれたので、ここでは横浜での1st・2nd公演の模様を中心に書いていこう。
 本編の中盤、ステージ上の林哲司に呼び込まれ、メンバーたちの登場SEとしてSONG FILE LIVEの1回目からずっと使われている「BOYのテーマ(劇中インストゥルメンタル)」が再び流れる中を客席に向かって手を振りながら登場。挨拶をして、「ステージでの共演はこれが初めてなんですよ」と林。そして驚いたことに1stステージの1曲目に披露されたのが「カレンダーにイニシャル」(2ndアルバム『TROPIC of CAPRICORN』収録)。会場に詰めかけたファンもさすがにこれは予想していなかったのか、ちょっと面食らった様子。いや、当時と変わらぬ “菊池桃子” を前にただ呆然としていただけだったのかもしれないが、独特の緊張感が漂う空間を当時と同じサウンド、そして歌声が包み込んでいく。菊池のパフォーマンスも序盤はやや硬さが見受けられたが、感覚を取り戻すように丁寧に歌い上げる。その後、35年ぶりに再会し新曲を作ることになったときのエピソードを挟んで「夏色片想い」へ。実はこの日のちょうど前の週に林哲司とヒャダインが書籍の企画で対談していて、対談後の雑談中に「来週のライブって「夏色片想い」やりますか?」と聞かれた林が「夏用にリハはやったんだけど、もう冬だから外そうと思ってて」と言うと、のけぞって残念がっていたことを受けて心変わりし、セットリストに復活させたと林が説明。演奏が始まると空気が一気に「キタ━(゜∀゜)━!!」ゾーンに突入、会場はえもいわれぬ多幸空間と化した。そして歌終わりで林が「みなさん昔に帰ってますか?」と問いかけ。なおこの横浜1stの客席にいたヒャダインは両手を挙げて歓喜、終始ノリノリで聴き入っていたことをお知らせしておく(笑)。そして3曲目に『Shadow』に収録されている新曲「Again」を披露してステージを降りた。歌い終えた安心感からか、登場時よりもたっぷりと手を振りながら楽屋までの動線を歩いていたように思う。
 そしてアンコールの最後に再び呼び込まれた菊池は、晴れやかな表情でステージへ。「よかったらみなさん、セイ・イエスのところで手を挙げてください。手を挙げると自然と元気が出ますから」と促し、「Say Yes!」へ。この曲、SONG FILE LIVEではアンコールの最後にヴォーカル陣とその日のゲストがみんなで歌唱するのが定番になっているのだが、ついに本人歌唱による大ラス「Say Yes!」が叶った瞬間でもあった。

LIVE REPORT

[1stステージ]SET LIST
カレンダーにイニシャル
夏色片想い
Again
(ENCORE)
Say Yes!

LIVE REPORT

 続いて2ndステージ。1stとは衣装を変えて登場、「Blind Curve」(1stアルバム『OCEAN SIDE』収録)からのスタートで、1stのときよりもいい意味で肩の力が抜けた様子で伸び伸びと歌っているように見受けられた。さすがは女優として長年表現の世界にいるゆえん、1stステージを受けて、シンガーとしてこの空間に合わせた歌、そして振る舞い、役割を感知し、即座に微調整してきたのだと思った。
 続いて披露されたのはこの季節にドンピシャの「雪にかいたLOVE LETTER」。1stステージの項で少し触れた冬用セットリストとして新たに追加されたのがこの曲で、本曲が聴けたのは公演がこの時期にリスケされたことによる産物。もっと言えば、SONG FILE LIVEにおける1st・2ndの差別化は1曲だけなのが慣例なので、両ステージをご覧になった方はかなりお得だったとも言える。さらには、カミシモ(ステージの両側)に移動して歌唱するという、これまでのSONG FILE LIVEでは見たことがなかったステージングまで見せてくれて、その様子を林が嬉しそうに見守っていたのも印象的だった(まさに担任の先生の顔で!)。
 アンコールの「Say Yes!」では、「今日はハンドマイクなので片手だけになってしまいますが、みなさんは両手で “セイ・イエス“ とよかったら」と話すと、林が自分のマイクスタンドを菊池の前へ。この流れを受けて会場備え付けのマイクスタンドが用意され、両手の振りを交えた「Say Yes!」が実現。声出しNG、新型コロナ第8波の只中という状況の中で「Say Yes!」が35年後の青春へのメッセージになった瞬間である。こんなご時世だからこそ、もっと聴かれるべき曲!と思わずにはいられなかった。
 しかし! 聴きたい曲はまだまだたくさんあるのが正直なところ。新曲含めた歌手活動はもちろん、今後のライブ展開にも期待したい(できればフルサイズで)。

LIVE REPORT

[2ndステージ]SET LIST
Blind Curve
雪にかいたLOVE LETTER
Again
(ENCORE)
Say Yes!

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 最後に少しだけ大阪での模様も。
 横浜の3日後に行われた大阪公演は、横浜よりさらに完成度を上げた印象で、MCで「このステージで4公演が終わっちゃうんです(寂)」と菊池が話すと、林に「またやればいいじゃん」と軽やかに返されていたこと、菊池がこのライブの状況を「集団タイムトリップ」と称していたこと、2ndのアンコール終わりにはメンバー全員と横並びで手を繋ぎ、挨拶したこと(これもSONG FILE LIVEでは初めて見た)を記しておきたい。
 林哲司が主宰するライブでありながら、菊池の久しぶりのステージのためにメンバー全員がバックアップに徹しながら花を添えた、見事な2日間だった。

写真:kisimari(W)
文:田渕浩久