SPECIAL

作詞活動40年間の中で生まれた数々の名曲を厳選収録した今作。小説ブックレットとしてCDに封入している、楽曲の歌詞を素に売野雅勇が書き下ろした13篇の短編ストーリーの中から一部を公開。

MIND CIRCUS

 「少年らしさは、傷口にしてナイフ」
ボードレールの詩の中から選んだ言葉に、勝手に主語をつけ、きみに贈った。私からの、初めてのプレゼントだった。
「きみのこと」
「少年らしさは、傷口にしてナイフ」と、きみはメモを声に出して読んだ。
「後半は、ボードレール」と私は言った。
「合作の方が、素敵だ」きみが言って微笑った。
夏の夕暮れだった。ひぐらしが遠くで鳴いていた。

最後のHoly Night

 16歳のマリエに出会ったのは、わたしが32歳で、コマーシャル・フィルムのディレクターをしている頃だった。マリエは身長172センチの売れ始めたモデルだった。顔立ちだは綺麗だが、上を向いた短めの鼻が品のない印象を与えた。しかし、売れ始めると、面白いことに、その雰囲気がキュートで、欠点のはずの鼻が彼女のチャームポイントになった。

Strangers Dream

 陸上競技場の観覧席は、メインスタンドの他は、緩やかな傾斜の芝生になっている。メインスタンドの上まで昇れば、山並みの下に南北に細長く広がる高原の街も見える。

 反対側の正面には、鮮やかな緑のスロープに長い影を落とす、旗を掲揚する高い3本のポールと、12本の小さなポールが建っている。

 芝生に、僕と麻紀は腰をおろした。

SUPER CHANCE

 よしず張りの粗末な海の家が並んでいた海岸に、昨日まではなかった、まぶしいくらい真っ白な大きなテントが張られていた。まだ日の出前だというのに。
 競泳用のプールでも入りそうな大きさで、砂浜から20センチくらい高い板張りの床もあった。屋根にはBEACH HOUSEと10個のアルファベットが、可愛いピンクとネイビー・ブルーのペンキで描かれていた。ひとつの文字が人間の背丈より大きかった。
 この海辺りの街に引っ越してきてから、4度目の夏が始まろうとしていた。