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スター選手を取り巻く栄光と名声はすばらしいことばかりではありません。登りつめた栄光ゆえに私生活をかき乱されたりプレッシャーに負けてレースで勝てなくなり転落する選手も少なくなく、時に挫折は悲劇へと変貌します。1990年代に大活躍したイタリア人のマルコ・パンターニという選手がいました。プロデビューわずか1〜2年目でツールドフランスという大舞台に登場したパンターニは、他の選手が苦しみよろめきつつ上ってゆく急坂をたった一人まるで重力から解き離れたかのように軽やかに喜ばしげに駆け上がる姿が世界中の自転車ファンを文字通り熱狂させ、一躍トップスターになりました。日本でもパンターニそっくりの格好で走るほほえましいサイクリストがたくさん見られたものです。
1998年にはツールドフランスとジロデイタリアという世界の2大レースを制覇するという偉業まで達成したパンターニでしたが、生来のナイーブな性格に加えてドーピング疑惑による執拗な取材攻勢(これは潔白が証明されています)、獲得した財産ゆえに生じた家族との隙間などが次第に彼を追いつめ、2004年2月ホテルの一室で一人寂しく34年の生涯を閉じます。薬物による自殺でした。
彼の悲劇は世界中のファンに衝撃を与え、とりわけ同胞のライダー達には深い影響を残したといいます。作中ではロンダニーニという花形選手が同じく自ら命を絶ったところからドラマは幕を開け、ヒーローの挫折が登場人物を大きく動揺させドラマを織りなしてゆきます。
[TEXT/青山 宏康]