『赤毛のアン』と並ぶ、L・M・モンゴメリの代表作と言われる『エミリー』シリーズ。そのアニメ化にあたって、制作陣が込めた思いとは? このコーナーでは、3回にわたって、プロデューサー&監督による鼎談をお届けしたいと思います。
(出席者)
斉藤健治(NHKエンタープライズ アニメ事業 チーフ・プロデューサー)
宮本秀晃(トムス・エンタテインメント 第一映像制作部 プロデューサー)
小坂春女(『風の少女エミリー』監督)
スペシャル・トーク ACT.1 モンゴメリ、そしてエミリー
L・M・モンゴメリといえば、なんといっても『赤毛のアン』が有名です。20ヶ国語以上に翻訳されている『アン』シリーズは世界中で愛読されており、ある意味では、原作者であるモンゴメリ以上に、“Anne”の名前は知られていると言っていいでしょう。
その『赤毛のアン』誕生から、およそ15年後に発表されたのが、『エミリー』シリーズです。『エミリー』三部作は、その内容から、モンゴメリの自伝的なニュアンスも含まれている、と言われています。主人公であるエミリーは、アンに通じるイメージを持ちながらも、作中で描かれる「境遇」や「進路」は、モンゴメリ自身に近いのです。言い換えれば、より現実的な視点から書かれた作品、とも判断できるでしょう。
さまざまな問題に直面しつつも、前向きに解決していくエミリー。その姿が、美しいプリンス・エドワード島を舞台に活写されます。今回、この原作が選定され、アニメ化の実現に至ったのは、どういった経緯だったのでしょうか。また、制作陣は原作のどのような部分に魅力を感じているのでしょうか――。
斉藤 NHKで放送するアニメ作品として、これまでにも「名作」路線を何本かやってきたんですが、次回作としてどんな原作を取り上げようかと考えていた中で、『エミリー』シリーズという提案に辿り着きました。その他にも多くの作品が候補に挙がっていたんですが、『エミリー』はイケるんじゃないか、と感じました。それで企画を進めて、制作に至ったんです。そう思った大きな理由としては、原作が持つ「時代を越えた普遍性」がありますね。100年以上も昔の話ではあるんですが、エミリーや友人たちが抱える問題って、今の子どもたちと共通している部分が多いんですよ。そういった問題を、エミリーたちがどうやって解決していくのか……それを描くことで、この原作を今やる意義はある、と考えました。
宮本 われわれ制作会社としては、やはり家族で観ていただけるような作品を採り上げたい、と思っていたんです。それと、アニメ化するわけですから、「絵になるかどうか」も重要です。そういう意味ではモンゴメリの作品は、かつての『赤毛のアン』もそうでしたが、その作品独特の画面というものが作れるんじゃないかと。アニメってなんだろう? と考えたときに、「こうだったらいいな」という、夢を持てるような世界を描けることも大きなメリットですし、『エミリー』なら、子どもたちに「こういうところで暮らしてみたい」とか、「この作品の世界に行きたい」とか、思ってもらえるに違いないと考えましたね。
小坂 『エミリー』で描かれている時代や生活様式って、女の子が憧れる世界観なんですよね。子ども時代を、こういうふうに過ごせたら……って。環境もそうですけど、友人たちのキャラクターも、みんな個性的で。イルゼやペリー、テディみたいな子って、周りに必ずいたと思うんです。そんな中で懸命に、前向きに生きているエミリーには、きっと今の子どもたちも感情移入できると思いました。作る側としても、それぞれのキャラクターを活き活きと描いていけそうな予感がありましたね。
宮本 そう、「等身大」というか……エミリーって気が強いところもあるでしょう(笑)。そんなところも、この作品をやれば面白くできそうだ、と感じた部分ですね。
斉藤 モンゴメリ作品のいいところというのは、風景描写の巧さや、キャラクターの台詞まわしの妙だと思うんです。アンやエミリーといった少女たちの「言葉」のリアリティって、他の作家にはなかなかないところですよね。主人公の少女が、いろいろな出会いを経て成長していくというのは『赤毛のアン』も『エミリー』シリーズも共通しているんですが、『エミリー』は後半、主人公が自分と向き合っていくという展開が中心になっていくんですよ。児童向けとしては高度なテーマですけど、大人が読むと、すごくよく分かる。悩みを乗り越え、自分と戦い、自分を越えていく……。その意味や大切さを伝えたい、という思いも、この企画には込めています。ただ、企画の初期の段階では、そうやって困難に向かっていく姿を物語の中心にしようという考えもありましたが、題材としては少し「重い」かもしれないということで、より学園ドラマ的、というか、エミリーたちの学校生活での出来事を身近な感覚で描いていく方向にしました。とはいえ、モンゴメリ作品らしさや、原作のエッセンスは常に重要視しています。原作ではエミリーの子ども時代……つまり10代前半の話というのは全体の中で決して分量が多いわけではないので、どのエピソードをピックアップして膨らませていくかは気を遣いましたね。モンゴメリの熱心なファンの方にも楽しんでいただきたいですし、翻案にあたっては時代考証の赤松(佳子)先生とも綿密な打ち合わせを重ねました。一話一話、しっかりとしたメッセージを送りたいですし、脚本作りはいつも、議論白熱しているんです。
- ☆スペシャル・トーク ACT.1
モンゴメリ、そしてエミリー - スペシャル・トーク ACT.2
プリンス・エドワード島へ - スペシャル・トーク ACT.3
映像化のポイント - エミリーのいるところ〜プリンス・エドワード島〜
- 原作者“ルーシー・モード・モンゴメリ”とエミリー
- エミリーの時代